種苗法の問題点


種苗法」という法律をご存じだろうか。農作物などの新品種創作に対する保護を定めたこの法律は、現在改正に向けた動きが進行中だ。「日本の種子を守る会」のアドバイザーを務める印鑰智哉さんは、「農業のあり方、食のあり方が変わってしまう」と警鐘を鳴らしている。
 
これまで農家はコメや野菜など育てた農作物の種や苗木を採取する事が許されてきた。これを「自家増殖」と呼んでいる。今回の改定では、生産者であっても無断で採取出来ない「登録品種」というカテゴリーが設けられる。例えばコメの場合、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」などは従来通り自由に増殖が認められるが、「ゆめぴりか」や「つや姫」といった近年人気のブランド米については許諾制となり、従来のように自由に種を採取することが禁止される。
 
今回の改正理由について農林水産省は、日本で開発されたブドウやイチゴなどの優良品種が海外に流出したり、農家が増殖したサクランボ品種が無断で外国に渡り産地化されてしまったケースが過去にあったため、新品種の権利を保護する必要があると説明している。だが、世界の食と農の問題を研究してきた印鑰さんはこの改正に多くの問題点を指摘する。新品種の育成者権はもちろん重要だが、自家増殖の制限で農家の権利が損なわれることを強く危惧している。
 
さらに国や地方自治体が公共事業で行ってきた種苗事業の知見を、民間企業に提供するよう促進していることも問題だと指摘する。民営化が進むと農家は企業からの委託生産となり、自由に有機農法や無農薬栽培を行うことが出来なくなるという。また、印鑰さんの調査によると北海道のコメや沖縄のサトウキビなどは、その多くが「登録品種」に該当しているそうだ。許諾料の発生により生産者の負担が増すことへの不安の声はネット上でも高まっているようだ。
 
いま世界の農作物は世界の超巨大メジャーによる寡占化が急速に進みつつある。現在わずか4つのメジャー企業が世界の種子市場のおよそ7割も握っている。各地域で作られてきた独自の種苗が得にくくなり、多様性が損なわれる危険性があると印鑰さんは語る。また、「遺伝子組み換え」や「ゲノム編集」された作物が国内に流入する可能性もあると問題視している。
 
結局6月の国会では改正案は成立見送りとなった。だが、秋に開かれる臨時国会で、再び改正案は審議される見込みだ。印鑰さんは「種苗法改正は農家だけではなく、我々消費者が一番大きな影響を受ける問題」と訴える。私たちの生活にもっと身近な「食」の問題はいま大きな曲がり角を迎えていると言える。なかなか難しいテーマだが、関心を持って一人一人が向き合っていかなければならない課題だろう。